Technology

ベータ(β)線吸収方式

目次

ベータ(β)線吸収方式とは
ベータ(β)線吸収方式を用いた質量濃度の測定原理
浮遊粒子状物質濃度測定装置の構造と動作原理
測定に影響を与える要因の低減
関連製品

測定原理

ベータ(β)線吸収方式とは

ベータ(β)線吸収方式は、放射線の1つであるベータ線を物質に照射した場合、その物質の質量に比例してベータ線が吸収される原理を利用した測定方式です。

ベータ線は不安定な原子核の壊変で飛び出した高速の電子(荷電粒子)です。 ベータ線が物質中を透過する際、物質の原子と衝突しベータ線が吸収されることで起こる原子の電離(イオン化)や励起(電子の軌道が高エネルギーレベルに上昇)や、ベータ線の軌道が変わることで起こる電磁波(X線)の放出で、ベータ 線の強さは減衰します。減衰量は透過した物質の質量(厚さ)に比例します。

この原理を利用して、大気中の浮遊粒子状物質*1の質量濃度*2を測定できます。以降は、大気中の浮遊粒子状物質をベータ(β)線吸収方式で測定する場合について説明します。

*1 : 浮遊粒子状物質:大気中に浮遊する粉じん。特に環境規制関係では大気中に浮遊する粒径が10μm以下の粒子状物質です。特に環境規制関係では大気中に浮遊する粒径が10μm以下の粒子状物質です。例えば、PM10やPM2.5と呼ばれる粒子状物質や黄砂が該当します。
*2 : 質量濃度:大気の単位体積あたりの浮遊粒子状物質の質量。単位はμg/m3です。

 

ベータ(β)線吸収方式を用いた質量濃度の測定原理

図1:ベータ(β)線吸収による浮遊粒子状物質の質量濃度の測定原理

図1:ベータ(β)線吸収による浮遊粒子状物質の質量濃度の測定原理

ベータ(β)線吸収方式では、大気中の浮遊粒子状物質はフィルタ(ろ紙)上に捕集されます。

捕集された浮遊粒子状物質にベータ線を照射し、フィルタを透過したベータ線の強度を測定します。(図1) 

 

ベータ線は透過する物質の質量(厚さ)の増加とともに指数関数的に減衰する特性があります。これにより、捕集された浮遊粒子状物質の質量は式1で算出されます。

質量吸収係数μmはほぼ一定のため、IとI0 の比からフィルタ上の浮遊粒子状物質の質量Xm が求められます。

Xm=In(I0/I)/μm (式1) 


Xm:フィルタ上の浮遊粒子状物質の質量
I:フィルタと捕集された浮遊粒子状物質をともに透過したベータ線強度
I0:フィルタだけを透過したベータ線強度
μm:質量吸収係数

式1:ベータ線吸収による浮遊粒子状物質の質量の算出

この質量Xmと浮遊粒子状物質を捕集する際に装置にサンプリングされた試料大気の体積より、浮遊粒子状物質の質量濃度が測定されます。

浮遊粒子状物質濃度測定装置の構造と動作原理 

浮遊粒子状物質測定装置の全体構造

図2:浮遊粒子状物質測定装置の構造

図2:浮遊粒子状物質測定装置の構造

ベータ(β)線吸収方式の浮遊粒子状物質測定装置は、連続でサンプリングして、紙上に捕集した粒子によるベータ線の吸収量の増加から質量濃度を自動的に得るため、大気導入部、分粒装置、フィルタ捕集機構、ベータ線源、シンチレーション検出器、信号処理部やサンプル流量制御部などで構成されます。(図2)

 

(1)サンプリング部の構造と動作原理

サンプリング部では、大きなダストや虫や雨の混入を防ぐ大気導入部を通過後に、試料大気が分流装置へ流れます。分粒装置は、試料大気中の浮遊粒子状物質を測定したい粒子径に振り分けます。振り分けられた測定対象の粒子は、フィルタ捕集機構により定流量でフィルタ上に捕集されます。

グラフ1:粒子径と捕集効率

グラフ1:粒子径と捕集効率

分粒装置

大気中の浮遊粒子状物質はその粒子径によって体内での挙動や健康影響が異なるため、下記の3つの粒子径で分粒されるのが一般的です。

PM2.5 (Particulate Matter 2.5) :一般的に微小粒子状物質と呼ばれる。大気中に浮遊する微粒子のうち粒子径が概ね2.5μm以下のもの。正確には粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置で得られる微粒子です。

PM10 (Particulate Matter 10) :大気中に浮遊する微粒子のうち粒子径が概ね10μm以下のもの。正確には粒子径10μmで50%の捕集効率をもつ分粒装置で得られる微粒子です。

SPM(Suspended Particulate Matter) :一般的に浮遊粒子状物質と呼ばれます。大気中に浮遊する微粒子のうち粒子径が10μm以下のもの(PM10とは異なる)。正確には粒子径10μmで100%の捕集効率をもつ分粒装置で得られる微粒子で、粒子径6.5~7.0μmで捕集効率50%に相当します。

捕集効率とは、分粒装置の重要な性能を表わす数値で、捕集粒子径の粒子が捕集される割合を表します。(グラフ1:粒子径と捕集効率)
例えば、上述の50%捕集効率のPM2.5 向けの分粒装置は、いくつかの粒子径2.5μmの粒子が装置に供給された場合、そのうちの半数が捕集され、残り半数は捕集されない性能を持ちます。PM2.5以外の粒子は、グラフ1のPM2.5曲線(赤の曲線)に従った粒子径(グラフ中の空気動力学的粒径に相当)と捕集効率(含有率に相当)で捕集されます。

分粒装置の種類と動作原理

代表的な分粒装置としては、インパクタ、サイクロン、多段型があります。粒子径と粒子の質量には相関関係があるので、いずれの方法も粒子の質量に対してインパクタは慣性力、サイクロンは遠心力、多段型は重力での沈降を利用して分粒します。大気中の浮遊粒子状物質を測定する場合は、分粒装置としてインパクタ、サイクロンが主に使用されています。ここではインパクタ(図3)とサイクロン(図4)の簡単な原理を紹介します。

図3:インパクタの構造と原理

図3:インパクタの構造と原理

インパクト方式

慣性力を利用した分粒方式です。矩形ノズルから導入された試料大気の流れ(青矢印)は、衝突板に衝突し曲げられます(赤矢印) 。重い粒子状物質は衝突板に衝突し、そのまま捕集されます。軽い粒子状物質は試料大気と共に下流(赤矢印)に流れます。

 

図4:サイクロンの構造と原理

図4:サイクロンの構造と原理

サイクロン方式

遠心力を利用した分粒方式です。サイクロンの入口より導入された試料大気の流れは、サイクロンの内壁で旋回流となり円錐部で加速されます(青矢印) 。その後流れは反転して、反転流となります(赤矢印) 。粒子状物質は、旋回流により遠心力が与えられ、遠心力と抗力の関係から重い粒子状物質は、円錐分の内壁に沿って移動し、捕集箱に捕集されます。また軽い粒子状物質は、遠心力と抗力の関係から、反転流に乗り分粒されます。

写真1:実際のサンプリング部

写真1:実際のサンプリング部

HORIBAは、インパクタとサイクロンを組み合わせて大気中のPM2.5 を捕集しています。(写真1)大気導入部で虫や大きな塵を取り除き、試料大気中のPM10をインパクタで分粒し、さらに分粒されたPM10中のPM2.5をサイクロンで分粒して捕集します。

 

フィルタ捕集機構

写真2:フィルタテープに捕集された粒子状物質の例

写真2:フィルタテープに捕集された粒子状物質の例

分粒された粒子状物質を含む試料大気はフィルタを通過し、浮遊粒子状物質だけがフィルタに捕集されます。また、粒子状物質を連続自動測定するには、フィルタをテープ状にしたロール(フィルタテープ)を巻き取りながら捕集する方式や、フィルタを何枚か用意し自動でフィルタを交換する方式等の機構が必要です。HORIBAは、フィルタテープ を使用して粒子状物質を捕集しています。(写真2) 

フィルタの目は選択された粒径のサイズより小さく、かつ大気がスムーズに通過できる必要があります。フィルタの目のサイズにより、フィルタ上での粒子状物質の収集効率が変わります。大気中の粒子状物質の収集効率は最低でも95%以上が必要です。フィルタは、一般的にガラス繊維やポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」(PolyTetraFluoroEthylene))をベースに作られる場合が多いです。

写真3:フィルタテープ

写真3:フィルタテープ

さらにフィルタ自体でのベータ線吸収を最小にするため、できるだけ薄い素材が求められます。例えば、HORIBAのフィルタテープの平均厚み(膜厚)は140μmです。(写真3)

フィルタテープ自動巻き上げ機構を使用する場合は、巻き取られたフィルタテープの捕集粒子状物質を再度分析したい場合も考慮し、捕集された粒子状物質が巻き取りの際にテープ裏面に付着しないようにする必要があります。

(2)測定部の構造と動作原理

ベータ線源

HORIBAではベータ線源として14Cを使用し、線源の強さは10MBq以下の安全な密封線源を採用しているため、特別な取扱資格や届出なしに使用できます。

検出器(シンチレーション検出器)

シンチレーション検出器は、シンチレータとPMT (光電子倍増管)で構成されています。シンチレータは、放射線を吸収して即時に発光する蛍光物質です。捕集された粒子状物質とフィルタテープを透過したベータ線がシンチレータに入ると発光し、その発光はPMTで検出されます。この検出値と式1により、捕集された粒子状物質の質量として算出されます。さらに、この算出値と流量計の測定値より、捕集された粒子状物質の質量濃度( μg/m3 )が算出されます。

測定部の感度確認

写真4:標準吸収膜

写真4:標準吸収膜

フィルタテープ上に実際に捕集された浮遊粒子状物質を使用した測定部の感度確認は難しいため、フィルタテープ上に捕集された浮遊粒子状物質に相当するベータ線を吸収する薄膜を使用します。この薄膜(標準吸収膜)は、マイラやポリイミド等を使用して作られています。(写真4)

図5:標準吸収膜による測定部の感度確認

図5:標準吸収膜による測定部の感度確認

この標準吸収膜により、定期的に測定感度を確認することで、容易に測定部の測定精度を維持できます。(図5)

 

測定に影響を与える要因の低減

浮遊粒子状物質の変化の低減

・結露や高湿度のサンプリングの防止することで、浮遊粒子状物質の潮解を低減します。

・吸湿性の低いフィルタテープを使用することで、捕集された浮遊粒子状物質の成分変化を低減します。

測定待ちフィルタテープへの帯電による浮遊粒子状物質の付着

薄くて帯電性があるPTFEベースのフィルタテープは、測定待ちの間に測定装置内部の空気の浮遊粒子状物質が付着する場合があります。できるだけ帯電性の低いフィルタテープを使用することで、これを低減できます。HORIBAはPTFEベース素材と不織布を組み合わせた独自のフィルタテープを開発しました。このフィルタはPTFEだけで製作されたフィルタテープに比べて、吸湿性と帯電性が低く、測定影響の要因を低減しています。(表1と表2)

表1:フィルタの吸湿性比較

表2:フィルタテープの帯電性比較

関連製品

浮遊粒子状物質は無機有機元素などさまざまな物質で構成されており、粒径によりSPM, PM2.5, PM10などに分けられます。粒径が小さくなるほど、体内の奥まで入りやすく呼吸器疾患などを引き起こしやすいと言われています。 ベータ(β)線吸収方式の分析計は、取り扱いの容易性によりさまざまな環境での大気中の浮遊粒子状物質の測定・監視で使用されています。

お問い合わせ

* 項目は必ずご記入ください。

HORIBAグループ企業情報