サービス > 受託分析・試験サービス > 機能性材料/先端材料 > カーボンナノチューブ(CNT)の測定例
カーボンナノチューブ(CNT)は軽量・高強度・柔軟で、導電性や熱伝導性が高いなど様々な特性を持つことから、エネルギー、エレクトロニクス、バイオライフサイエンスといった多様な分野で使われております。CNTはカイラリティによって、物性が金属的あるいは半導体的になります。
分光エリプソメーターでは膜状(ネットワーク)にしたCNTを測定することが可能であり、得られた光学定数(屈折率n、消衰係数k)より、このCNTが金属的か、もしくは半導体的かということがわかります。
本アプリケーションノートでは、ネットワークにした物性が異なるCNTの測定について紹介しています。
図1 カーボンナノチューブ (CNT)(単層ナノチューブ (SWNT))
CNTのアプリケーション[1]
エネルギー | リチウムイオン電池 |
エレクトロニクス | 透明導電膜 |
バイオライフ | 細胞培養 |
[1] www.meijo-nano.com/applications/use.html (2020年5月19日閲覧)
図2 CNTネットワーク
CNTネットワーク(膜)
CNTネットワーク(膜)とは図2のように、CNTを分散させて膜状にしたもので、透明導電膜やトランジスタなどのへの応用が期待されております。
CNT膜にはCNTと40~60%程度の空気(Void)が混ざっております。これを光学モデルではCNTとVoidが混ざった膜として表しております。シミュレーションデータと測定データのフィッティング計算の結果、膜厚と光学定数(n&k)が得られました。
グラフェンシートを原点からカイラス指数(n,m)がどの指標の点と合わせて巻くかで、CNTの物性が決まります。(2n+m)が3の倍数となるとき、CNTは金属的になります。(2n+m)が3の倍数でないとき、CNTは半導体的になります。
分光エリプソメトリーは、入射光と反射光の偏光状態の変化を波長ごとに計測し、得られた測定データをもとに光学モデルを作成、フィッティング計算をすることにより薄膜の膜厚および光学定数(屈折率n、消衰係数k)を非破壊、非接触で求める分析手法です。この手法を行う装置を分光エリプソメーターといいます。
半導体SWNT膜サンプルは、0.8eV付近より低エネルギー(長波長)側では消衰係数(k)がゼロ、これより高エネルギー(短波長)側で急峻で大きな吸収が見られます。また他にもいくつかのバンドによる細かい光学定数(n&k)のピークが見られます。
金属SWNT膜サンプルは近赤外領域において、消衰係数(k)が大きくなっております。これは自由電子による吸収であり、導電性が大きいことが分かります。また光学定数(n&k)を見ると、2.1eV, 2.3eV, 2.6eV付近でバンドによる細かいピークが見られます。
MWNT膜サンプルは近赤外領域において、消衰係数(k)が大きくなっております。これは自由電子による吸収であり、導電性が大きいことが分かります。SWNTサンプルのような細かいピークは見られませんでした。
S11, S22の範囲で見られるのは半導体CNT由来のピーク、M11の範囲で見られるのは金属CNT由来のピークです[2]。
[2] Y. Battie, et al., Appl. Phys. Lett., 102, 091909 (2013)
半導体SWNTネットワークサンプル(半導体の純度80%)は、0.8eV付近で大きな光学定数(n&k)の変化が見られることより、ここにバンドギャップがあることが分かります。0.8-2.5eV付近(S11, S22)に見られるいくつかの細かいピークは、半導体型CNT由来のピークになります。一方このサンプルは金属が20%混ざっていますが、2.7eV付近(M11)に見られる金属型CNT由来の消衰係数kのピークは僅かしか見られません。これは金属CNT由来のピークが、半導体CNT由来のピークと比較して弱いためです。
金属SWNTネットワークサンプル(金属の純度95%)の消衰係数(k)に見られる2.6eV付近(M11)のピークは、金属型CNT由来のピークになります。一方、2.1eV, 2.3eV付近(S22)でのピークは、半導体型CNT由来のピークになり、またS11の領域(0.8-1.4eV)では細かいピークではなく、ブロードなピークが見られております。半導体CNT由来のピークは金属CNT由来のピークと比較して強いため、5%の不純物であってもピークが明確に見られます。
MWNTは金属的な性質を持つことが知られております[3]。これよりMWNTネットワークサンプルと金属SWNTネットワークサンプルのn&kを比較すると、全体的な波長分散の形が似ています。一方でSWNTのように細かいn&kのピークは見られませんでした。またSWNTと比較すると消衰係数(k)の変化が小さくなっております。
[3] 丸山茂夫, Chemistry Education (http://www.photon.t.u-tokyo.ac.jp/~maruyama/MHF/ChemistryEducation.pdf 2020年3/25閲覧)
CNT膜にはCNTと40~60%程度の空気(Void)が混ざっており、光学モデルではCNTとVoidが混ざった膜として表しております。CNTの物性の違いは光学定数(n&k)の波長分散の形に現れ、これによりCNTが金属的、あるいは半導体的になっていることがわかります。
分光エリプソメーターではネットワーク(膜)にしたCNTの物性が定性的に分かり、狙ったアプリケーションに適切な膜であるかを確認することができます。CNTとVoidの比率を計算することにより、CNTの密度を求めることが可能になります。