ゲルとは、コロイド溶液や高分子溶液が網目構造を形成し、流動性を失った状態の総称です。 液体中に分散したナノ粒子の粒子径を測定する手法である動的光散乱法を応用し、ゲルの網目サイズを測定することができます。 液体中のナノ粒子はブラウン運動というランダムな拡散運動を行っており、ブラウン運動の速さを示す拡散係数Dと粒子径dはストークス・アインシュタインの式で関係づけられます。
D=kT/3πηx
拡散係数 D、粒子径 x、粘度 η、ボルツマン定数 k 、絶対温度 T
網目構造を持つゲルにおいても、網目が形成する格子点がブラウン運動のようなランダムな運動を行っており、動的光散乱を用いて網目の拡散係数を測定することができます。 しかし、液中のナノ粒子とゲルでは大きく2つの点で違いがあります。
1つ目の違いは、拡散運動の様式です。 下図のように、液中のナノ粒子の場合、粒子濃度が高くなければ、粒子は自由に拡散運動することができ、一つの粒子の拡散係数である自己拡散係数で拡散速度を表すことができます。
一方、網目構造を持つゲルでは、格子点は自由に運動できず、運動の一部が凍結されています。 このため、ある格子点の運動は、その周りの格子点の運動に影響されます。 このような場合、一つの格子点の拡散係数ではなく、その周りの複数の格子点を含めた拡散係数である協同拡散係数で格子点の拡散速度を表します。
2つ目の違いは、内部の均一性です。 液体中のナノ粒子は自由に拡散運動できるため、液中で均一に分散しています。 そのため、粒子径分布はセル中の場所に依存せず一定のため、測定箇所は1点のみでよく、観察する粒子数を増やして粒子径分布の信頼性を上げるためには、より時間をかけて測定すればよいということになります。
一方、網目構造をもつゲルは、場所によって網目サイズが異なる不均一な構造を持っています。 このような場合、1点で得られた網目サイズ分布は、サンプル全体の網目サイズ分布と一致しません。 このため、サンプル全体の網目サイズ分布を得るためには、測定場所を変えてサイズ測定を行う必要があります。
上記の内容から、ゲルの場合は複数の場所で分析する必要があります。 下記の3ステップでゲルの網目サイズ分布を測定します。
レーザーを照射する場所を変えて、複数点で2次の自己相関関数gt(2)(τ)を測定します。
(相関関数に関する詳しい説明は参考文献を参照ください)
ゲルの不均一性を反映して、場所により異なる形状の2次自己相関関数が得られる場合があります。
複数点で得られた2次の自己相関関数から、以下の式でアンサンブル平均された1次の自己相関関数gen(1)(τ)を算出します。
(相関関数に関する詳しい説明は参考文献を参照ください)
なお、<>spは空間平均を表し、場所を変えて得られたデータの平均を意味します。
各点における散乱光強度<I>t、各点における2次の自己相関関数gt(2)
アンサンブル平均された1次の自己相関関数から網目サイズ分布を算出します。 通常のナノ粒子の粒子径測定の場合と同様の式から、網目の協同拡散係数を算出し、ストークス・アインシュタインの式を用いてゲルの網目サイズ分布を算出します。
アンサンブル平均された1次の自己相関関数は指数関数的に減少する動的成分(Id)と一定値を取る静的成分(Is)に分けられます。 このうち、動的成分が網目のブラウン運動由来の信号なので、動的成分のみを取り出して網目サイズ分布を計算します。 静的成分は運動が止まっている網目の成分に対応しており、硬いゲルほど静的成分が大きくなる傾向にあります。
ナノ粒子解析装置 nanoPartica SZ-100V2と典型的な測定例
nanoPartica SZ-100V2ゲル解析仕様の外観と光学系を下図に示します。 ゲルの照射位置を変えるために、キュベットセルを上下に移動させる昇降ユニットを搭載しています。 セルの位置を自動で変えながら各点での2次の自己相関関数を計測します。 得られた2次の自己相関関数をアンサンブル平均し、網目サイズ分布まで表示する機能を搭載しています。
典型的な測定例
希釈倍率の異なる化学解繊したセルロースナノファイバーゲルの網目サイズ分布を測定しました。 希釈倍率を上げるごとに網目サイズが大きくなる様子が観測されました。
架橋剤の添加量が異なるDMAAmゲルの網目サイズ分布を測定しました。 架橋剤の添加量が増えると共に網目サイズが減少しました。
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